ご承知のように、小説・論説文・音楽・映像ソフトなどの著作物を利用する場合には、原則として著作権者の事前の許諾を得て使用料を払わなければなりませんが、学校などの教育機関においては、教育の公共性から著作権が制限され、著作権の処理手続きをしなくても、一定の範囲で自由に利用することが認められています。
具体的には、授業用の資料を作成・配布や授業におけるインターネット送信(著作権法第35条)、入学試験問題としての複製(同36条)及び非営利・無料の上演など(同38条)が該当します。
しかし、従来の教育界においては、著作権に対する理解の不足から、著作権法における教育への配慮が拡大解釈され、学校教育においても教材作成や入試問題の取り扱いなどにおいて、本来許されるべき利用範囲を超えて、著作物が利用されてきました。
たとえば、平成11年3月に、小学校の国語の副教材テストに作品を無断で使用されたとして、大手教材出版会社6社を相手に作家らが起した裁判は、教育と著作権のあり方をめぐって、大きな問題提起となりました。この裁判は、東京高裁において教材出版会社に損害賠償を命じる判決が出て決着しましたが、今後、教育現場において著作物をめぐる権利処理をどのように適正かつ簡便に行うかについてのルール作りについて、著作権者と利用者の双方において検討が行われました。
また、全国の私学協会の皆様のご理解を頂くことにより教育NPOと各私学協会との連携による研修会等を開催し、
「教育と著作権」についての理解を深める活動を実施することが出来ました。こうした活動を踏まえまして、活動を開始した2004年9月6日から20年目となります令和6年9月6日現在、全国39都道府県、640校にに入会をいただいております。
学校が入学試験問題の2次利用等を行う場合、使用した著作物について著作権者に許諾を求めるとともに使用料を支払う著作権の権利処理が必要となります。こうした事務処理は使用者の学校のみならず著作権者にとっても、許諾申請から使用料の支払いまでのやりとりは負担となることから簡便に処理できる方策が求められることになります。
教育NPOでは当初の目標として、教育分野における著作権の集中的処理システムを確立することに全力をあげ、日本文藝家協会(現在:公益社団法人日本文藝家協会)と半年間にわたる協議を経て、平成16年12月16日に、「私立中学校・高等学校における著作物の2次的な利用に関する補償金制度」について協定を結びました。
教育現場において著作物利用をどのように適正かつ簡便に行うかについて、初めて著作権者側と利用者側の双方が議論を深めて作成したルールが、実施されることとなったのは画期的なことです。これにより著作権処理がより広く行われるとともに著作権に対する理解が深まることとなり、学校における著作権処理の適正化が進展いたしました。
また、この協定によって、公益社団法人日本文藝家協会に教育項目の著作権処理を委託している著作権者に関しては、教育NPOから、著作物の利用の明細を報告するとともに年間補償金を支払うことにより、入学試験問題のホームページへの掲載や受験関係者への配布、担任外のクラスにおける定期テストなどの問題作成、自主的なサークル等での使用などの個々の権利処理が必要とされている内容についても行えることになりました。
なお、教育NPOが支払う年間補償金については、年会費5万円の中から負担しますので、教育NPOの会員校は「早く、低額の負担で、確実に」入試問題の2次利用の許諾が得られる制度が確立しているので、権利処理がたいへん簡便になっています。
公益社団法人日本文藝家協会との協定に続き教育NPOと朝日・読売・毎日新聞社は平成21年、各新聞記事を用いた入試問題の二次利用(ホームページ掲載及び受験生などへの無償配布)について、教育NPOが一括して報告することを条件に無償で許諾する内容の覚書を締結したほか、朝日学生新聞社、朝日小学生新聞および朝日中学生ウィークリーの記事について同様の覚書を締結しています。
今後とも公益社団法人日本文藝家協会との連携を堅持するとともに、覚書を締結する各新聞社のご理解を頂くことにより、私立学校における著作権処理がより負担なく円滑に行えるように、現在の制度を維持していくことは重要です。それとともに、学校教育にご理解とご協力を頂いている著作権者の方々に対して、学校教育に対する理解を深める努力も重要であり、そのためには、学校が著作権者への感謝の気持ちをもって接することに併せて、教育NPOは全国私学協会との連携を深化させることで私立学校に対する著作権に関する啓蒙活動を進めていくことが重要です。こうして学校教育における著作権処理が適正に実践されることで、さらに協定や覚書に対する理解が進み、学校がより利用しやすい制度が拡充していくものと考えています。
一方、コンピュータや通信技術の急激な発達を背景に、国のGIGAスクール構想の推進により、学校における「1人1台端末」の整備は公立の高等学校において令和6年度中に終わる予定であり、私立の高等学校においても令和5年度末で61%と遅れていますが今後も整備が進む状況となっています。学校教育の現場においては、著作物をインターネット経由で利用するオンライン授業が行われる環境が整うとともに、著作権法に基づき2019年1月に設立された一般社団法人授業目的公衆送信保証金等管理協会(SARTRAS)への補償金を支払うことで、著作物をインターネット経由で利用することができる環境整備もなされました。
また、生成AIの利用に関するガイドラインが文部科学省から示されるなど、学校教育において生成AIの活用は前提として考えられるようになっています。こうした中で、令和6年3月に文化審議会著作権分科会法制度小委員会の報告「AIと著作権に関する考え方について」示されている論点や今後も引き続き行われる議論の継続状況についても注視し、学校教育と著作権の関係についての情報の収集に努める必要があると考えています。
なお、生徒がインターネットを通して多くの著作物に触れる機会が増大することと合わせて安易に利用することもできるようになり、コンクール作品がアーティストの作品の丸写しであることが受賞後に判明して生徒本人が傷つくことも起きています。より身近に活用していく子供たちを守るためにも著作権の存在や使用のルールを教える「生きた著作権教育」の必要性が高まっています。生成AIに関する情報を含めて、著作権教育に関する情報を学校に提供をしていくことが必要となっています。
学校は試験問題の作成に当たり、著作権者に関する情報とともに様々なコンテンツの利用に関する情報も必要としています。教育NPOが行う2次利用申請の代行申請を通して得た著作権処理に関する情報に加えて、クリエイティブ・コモンズの様なインターネット時代のための新しい著作権ルールに関する情報など、学校を取り巻く環境変化に応じた情報を適切に提供することにより、円滑な著作権処理が行えるように努めていくことが重要です。
今後とも著作権者の方々と学校の双方からの信頼を維持して、着実に著作権処理の業務を遂行するとともに、学校教育と著作権に関する情報の収集と提供に努めることで教育NPOの役割を着実に担ってまいります。
(2024年9月6日更新) ※2004.9.6 事業活動開始 2004.8.25 内閣府承認
以上
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